飲食店の開業に必要な厨房機器とは?費用相場や選ぶ際のポイント
2025.12.01
- 飲食店の開業

「飲食店の開業にあたり、必要な厨房機器は?」「まずは何を準備するべき?」
開業前の課題はさまざまですが、特に厨房機器に関する悩みは多く聞かれます。
厨房機器は業態やメニューによって必要な設備が異なり、保健所の許可を得るために満たすべき条件もあります。
本記事では、開業時にそろえておきたい基本の厨房機器から、業態ごとに必要な設備、費用相場、選び方のポイントまでをわかりやすく解説します。
また、「開業設計提案」を得意とするメーカー視点から、新品・中古・リースの違いや「食品営業許可」に関する基本もまとめました。
飲食店開業をスムーズに進めたい方は、ぜひ参考にしてください。
すべての飲食店で開業時に必要な厨房機器6選
業態に関わらず、開業時に欠かせない基本の厨房機器があります。
まずは、飲食店に共通して導入される6つの設備を見ていきましょう。
シンク
食材や食器、調理器具を洗うシンクは、どの飲食店にも欠かせない基本設備です。
食品営業許可を取得するには、幅45cm×奥36cm×深18cm以上のサイズで、食材用と食器用を分けるために2槽以上の設置が求められます。
ただし、食洗機を設置している場合は1槽でも認められることがあり、基準は自治体によって異なるため、事前に保健所への確認が必要です。
価格は3万〜90万円程度と、大きさ・素材・設置場所によって変動します。
厨房が狭い場合は排水位置や作業動線を考慮し、清掃しやすい材質を選ぶと失敗がありません。
水回りの位置は後から変更が難しいため、設計段階で検討しておくのがおすすめです。

調理台(作業台)
食材の下ごしらえや盛り付けなど、日々の調理作業を支えるのが調理台(作業台)です。
衛生的で錆びにくいステンレス製が一般的で、引き出し付きや、冷蔵機能を備えたコールドテーブル一体型などもあります。選ぶ際は、厨房の広さや動線、スタッフの身長、作業内容を考慮し、使いやすい高さとサイズを選ぶことが大切です。
特に狭い厨房では、台下収納や一体型だとスペースを有効活用できます。
価格は10万〜40万円程度が目安で、サイズや素材、引き出し・冷蔵機能などの有無によって大きく異なります。
調理効率や清掃のしやすさを意識した選択で、開業後の使いづらさを防げます。
冷凍冷蔵庫
食材の保管に欠かせない冷凍冷蔵庫は、飲食店の規模やメニュー内容に合わせた容量選びが重要です。
営業に必要な食材量を把握したうえで、冷凍庫と冷蔵庫のバランスを考えて選びましょう。
厨房内が狭い場合、扉の開閉スペースや動線を妨げない配置にも注意が必要です。
また、営業許可を得る際には、庫内温度を確認できる温度計の設置が求められることがあります。
相場は20万〜30万円程度で、容量・メーカーによって異なります。
容量を重視することが多いのですが、省エネ性能やメンテナンスのしやすさも意識することで、長く安心して使える機器です。

製氷機
ドリンク提供の多い飲食店では、製氷機も欠かせない厨房機器です。
作れる氷の量や保管容量は機種によって異なるため、座席数やドリンク提供数、回転率を踏まえて選びましょう。氷の使用量は夏場に大きく増えるため、最も忙しい時期を基準に製氷能力を設定するのが安心です。
卓上型やアンダーカウンター型など、設置方法もさまざまで、狭い厨房ではスライド扉タイプが重宝されます。価格相場は30万〜60万円程度と、製氷能力・貯氷容量・設置タイプによって差が出ます。
導入時は設置スペースだけでなく、給排水や換気スペースも確認し、衛生的に使える環境を意識するとよいでしょう。
ガステーブル(ガスレンジ)
加熱調理を行うためのガステーブル(ガスレンジ)は、飲食店にとって中心的な厨房機器です。
テーブルにガスコンロを内蔵したものがガステーブル、オーブンと一体になったタイプがガスレンジと呼ばれます。火力や口数、使用できるガスの種類(都市ガス・LPガス)を事前に確認し、店舗の設備に合った製品を選びましょう。
安全装置の有無や点火方式(手動式・自動点火式)も機種によって異なります。
価格の目安は10万円前後で、口数・火力・安全機能・内蔵オーブンの有無によって差が出ます。
厨房の広さやメニュー内容に合わせて、作業効率と安全性を両立できる機器を選ぶことが大切です。
食器棚
食器や調理器具を衛生的に保管するための食器棚も、飲食店に必須の厨房機器です。
食品営業許可の基準では、扉付きの食器棚を1台以上設置することが求められます。
ガラス戸や引き戸、吊り戸棚タイプなどさまざまな種類がありますが、重要なのは衛生的に保管でき、日常的に清掃しやすい構造であることです。
目線より高い棚や、天井との隙間が大きい設置方法は基準を満たさない場合があるため注意しましょう。
価格の目安は8万〜35万円程度で、サイズ・材質・扉の構造(引き戸・観音開き)によって大きく差が出ます。
衛生性と使いやすさの両面から、厨房全体の動線に合うものを選ぶのが基本です。
業態によって開業時に必要な厨房機器5選
ここまで紹介した機器は、すべての飲食店で共通して必要となる基本設備です。
一方で、業態や提供メニューによっては、追加で導入を検討すべき厨房機器もあります。
必須ではないものの、調理効率や品質を左右する重要な設備も多くあります。
ここでは、業態によって導入を検討したい代表的な5つの厨房機器をまとめました。
オーブン
肉料理や焼き菓子など、幅広いメニューに使えるオーブンは、多くの飲食店で導入されている加熱機器です。
ガス式や電気式、卓上型や据え置き型など種類もさまざまで、スチームコンベクションオーブン(スチコン)と併用またはどちらかを選ぶ店舗も多く見られます。
価格相場は20万〜80万円程度で、熱源・容量・スチーム機能の有無によって変わります。
メニュー内容や厨房のスペース、換気環境を基準に選ぶのがおすすめです。
調理効率を重視する場合は、ハイパーグリルのような高火力・多機能タイプも検討するとよいでしょう。
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スチームコンベクション
スチームコンベクションオーブン(スチコン)は、熱風と蒸気を組み合わせて加熱できる多機能オーブンです。焼く・蒸す・煮るなど複数の調理法を1台でこなせるため、ホテルや給食施設、レストランの大量調理で重宝されています。
オーブンに比べて調理の均一性と時短効果に優れ、メニューの幅を広げられるのが特長です。
相場は40万〜150万円程度で、サイズ・加熱方式(ガス式/電気式)・スチーム機能の精度によって価格は異なります。
導入時は厨房の電源容量・排気設備・設置スペースを確認し、日々のオペレーションに合ったモデルを選ぶことが大切です。
エスプレッソマシン

カフェやレストランなど、コーヒーの提供にこだわる店舗では、エスプレッソマシンの導入を検討する価値があります。
マシンの種類は全自動・半自動・手動の3タイプがあり、抽出の安定性や操作性、設置コストに差があります。全自動タイプはボタンひとつで均一な味を再現でき、スタッフ教育の手間が少ないのが特徴です。
一方で、風味や抽出圧を細かく調整したい店舗では半自動タイプが好まれます。
価格相場は20万〜150万円程度で、抽出圧力・抽出口数・自動化レベルによって大きく変動します。
導入時は提供杯数やメニュー構成に合わせて、必要な性能とメンテナンス性を確認しましょう。
ダクト
ダクトは、厨房で発生する煙・熱気・においを外に排出するための換気設備です。
調理時の油煙や蒸気の放置は、室内の温度上昇や臭気トラブルにつながります。そのため、適切な排気計画が欠かせません。
ダクトには排気ダクト・排煙ダクト・換気ダクトなどの種類があり、店舗の構造や調理機器の配置に合わせて設計します。特に火を使う厨房では、排煙ダクトの設置が保健所や消防法で義務付けられている場合があるため注意が必要です。
価格相場は10万〜100万円程度で、店舗の広さ・ダクトの長さ・施工条件によって変わります。
快適で安全な厨房環境を保つためにも、専門業者による設計・施工をおすすめします。
グリストラップ
グリストラップ(排水トラップ)は、厨房の排水に含まれる油脂や残渣を分離・回収する設備です。
排水口の詰まりや悪臭を防ぎ、衛生的な環境を維持するうえで欠かせません。
多くの自治体では設置が義務付けられており、食品営業許可の取得にも関わる重要な設備です。設置タイプは床埋め込み式やシンク下設置型などがあり、厨房の規模や排水量に合わせて容量を選定します。
価格の目安は5万〜40万円程度で、材質・サイズ・施工条件によって差が出ます。清掃・点検がしやすい構造を選ぶと、衛生管理の負担を減らせます。
知っておきたい「食品営業許可」のこと
飲食店を開業する際は、所轄の保健所で「食品営業許可」を取得する必要があります。
この許可を受けるには、店舗の構造や設備が食品衛生法に基づく基準を満たしていなければなりません。
特に、シンクや食器棚、手洗い設備などの仕様はこの基準によって細かく定められているため、厨房機器をそろえる前に内容を把握しておくことが大切です。
主な設備要件としては、
・食材用と食器用に分けた2槽以上のシンク
・扉付きの食器棚
・手洗い設備
・食材の保管設備
などが挙げられます。これらが不足している場合、営業許可が下りず開業できないケースもあるため注意が必要です。
また、設備の細かい基準は自治体によって異なるため、厨房機器を選ぶ前に必ず所管の保健所で最新の基準を確認しましょう。
基準の詳細は、たとえば東京都の場合、「東京都 食品関係営業許可申請の手引(PDF)」で公開されています。
厨房機器は新品・中古・リース、どちらにすべきか
厨房機器をそろえる際は、購入方法にも「新品」「中古」「リース」の選択肢があります。
どの方法が最適かは、開業資金や店舗の運営方針によって異なります。
それぞれの特徴を比較して、店舗の状況に合った方法を検討しましょう。
| 種類 | メリット | デメリット |
| 新品 | ・最新機能・故障リスクが低い・メーカー保証がある・衛生面で安心 | ・初期費用が高い・減価償却に時間がかかる |
| 中古 | ・初期費用を大幅に抑えられる・状態の良い機器を選べば十分実用的 | ・保証が短い/ない場合が多い・寿命が読みにくい |
| リース | ・初期費用を抑えて導入できる・定期メンテナンス込みの契約もある・開業直後の資金繰りに有利 | ・総支払額が割高になることも・解約や返却に制限がある |
開業初期は資金を抑えつつ運営を安定させたいなら「中古」や「リース」、長期的な使用を見据えるなら「新品」を選ぶなど、事業計画に合わせて判断しましょう。
また、厨房機器をトータルで提案するメーカーの立場から見ると、単体の価格だけでなく「導線」「光熱コスト」「メンテナンス性」まで含めて最適化することが重要です。
一部を中古・リースで費用を抑えつつ、耐用年数やメンテ頻度がシビアな機器だけ新品にするなど、全体設計の視点で選定するとムダのない開業が実現します。
新品と中古の比較は「中古の業務用ピザ窯ってどうなの?メリット・デメリットと注意点を解説」でも解説しているため、参考にしてください。
開業に必要な厨房機器を選ぶ際のポイント
厨房機器を選ぶときは、価格だけでなく、サイズ・機能・設置基準・サポート体制まで総合的に見ることが重要です。
ここではポイントを5つにまとめ、それぞれ詳しく解説します。

サイズ
厨房機器のサイズは、必要な容量だけでなく、作業動線とのバランスを考えて選ぶことが大切です。
大型機器は容量が確保できるものの、調理や配膳の動きを妨げ、作業効率が下がります。特に、扉の開閉スペースや通路幅を確保できるかどうかは、見落とされがちなポイントです。
また、機器同士が干渉しないか、電気・ガス・給排水設備との位置関係も事前に確認しましょう。
冷蔵庫やオーブンなどは扉を開けた状態でも安全に動けるスペースを保つことが理想です。
開業設計の段階でレイアウトをシミュレーションしておくと、ムダのない厨房づくりができます。
機能性
厨房機器は、高性能であるほど良いとは限りません。意識したいのは、提供するメニューやオペレーションに必要な機能を満たしているかどうかです。
たとえば、ピーク時の調理量や同時進行の作業を想定して、処理能力や保温・冷却能力を基準に考えましょう。また、機器の操作性やスタッフのスキルも考慮が必要です。
多機能すぎる機器は使いこなせず、かえって作業効率を下げてしまうケースもあります。
「必要な機能を過不足なく備えた機器を選ぶこと」が、コストパフォーマンスを最大化するポイントです。
価格
厨房機器の価格は、導入方法を左右する大きなポイントです。このとき、購入価格だけでなく設置・維持にかかる総コストを意識して判断するのがおすすめです。
搬入・設置費用、電気・ガス・水道代などのランニングコストを含めると、長期的な支出は大きく変わります。
また、開業資金とのバランスを取るには、耐用年数と使用頻度の高い機器の優先度を整理するのが効果的です。
冷蔵庫や加熱機器などの基幹設備は新品を選び、補助的な機器は中古やリースで費用を抑えるなど“投資する部分と抑える部分の線引き”を意識してみましょう。
価格は悩ましい部分ですが、自治体の補助金・助成金制度を活用すれば初期コストを軽減できる場合もあります。
コストを「削る」ではなく「最適化する」視点が、無理のない開業計画につながります。
設置基準
厨房機器を導入する際は、保健所や消防法の基準を満たす設置計画になっているかを必ず確認しましょう。
シンクの数や位置、火気を使用する機器の配置などは、食品営業許可や消防法の基準に関わります。
特にガス機器を扱う場合は、消防署への届出や安全距離の確保が求められるケースもあります。
これらの基準は自治体によって異なるため、自己判断せず、必ず所轄の保健所・消防署で最新情報を確認することが大切です。
また、開業設計をサポートする専門業者に相談すれば、法令を満たしながら効率的なレイアウトを提案してもらえます。
アフターサポート
厨房機器は日々の営業で頻繁に使用するため、突然の故障が売上に直結するリスクがあります。そのため、購入前にメーカーや販売店の保証内容やサポート体制を確認しておくと安心です。
特に確認したいのは、保証期間・修理対応のスピード・交換部品の入手しやすさの3点です。
中古品やリース契約ではサポート内容が異なるため、事前に対応範囲を把握しておきましょう。
アフターサポートのように「万一のときに頼れる体制があるか」まで見ておくと、長期的な運営の安心につながります。
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飲食店の開業では、厨房機器の選定が店舗運営の質を左右します。
設備基準を満たしつつ、動線やコスト、サポート体制まで総合的に検討することが成功のカギです。
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この記事を書いた人
販売管理部 取締役
住宅メーカーでの接客・ゾーニング・CAD提案を経て、厨房業界へ転身。以後10年にわたり、大手チェーン店案件を中心に現場調査→プランニング→積算→施工までを一気通貫で担当してきました。設計・施工・運用の全工程を把握したうえで、導入計画と現場オペレーションの整合を取ることを重視しています。
現在は自社製品の販売を統括。お客様の「うまく言語化されていない本音や制約条件」を丁寧に引き出し、レイアウト最適化、導入コストとスケジュール、運用負荷、契約・リスクの確認ポイントまで踏み込んで提案するのが持ち味です。法学部で培った合意形成・契約視点を背景に、コラムでは導入・設置・運用・コスト試算の実務的観点を中心に、現場で役立つ判断基準を解説します。
「ご用聞きではなく、潜在課題の言語化と解決」が信条。プライベートでは釣りとアガベ栽培に熱中し、環境条件の管理や段取りの大切さを日々の仕事に生かしています。

